あなたの患者さんも対象? ドラマきっかけで知るリフィル処方・オンライン服薬指導の仕組みと看護師の関わり
医療ドラマを見ていると、患者さんが「薬をもらいに毎月病院に来るのが大変」「遠方に住んでいる家族が薬を取りに来られない」といった困りごとを訴える場面に出会うことがあります。あるいは、退院後の患者さんが「薬局に行くのも一苦労で…」と話されるのを聞くこともあるかもしれません。
こうした患者さんの声は、決してドラマの中だけの話ではなく、日々の医療現場でも実際に聞かれるリアルな課題です。特に、慢性疾患で長期間同じ薬を服用している方や、移動が困難な高齢の患者さんにとっては、繰り返しの受診や薬局への訪問が大きな負担となり得ます。
ドラマの「薬の困りごと」と現実の制度
ドラマでは、患者さんの困りごとに対して、医師や看護師が親身に対応したり、家族が協力したりする様子が描かれることが多いでしょう。それは現実の医療現場でも同様ですが、実はこれらの課題に対応するために、近年、日本の医療制度においても新たな仕組みが導入・拡充されています。それが、「リフィル処方箋」と「オンライン服薬指導」です。
これまでの日本では、原則として医師の診察を受けるたびに新しい処方箋が発行され、それを持って薬局に行く必要がありました。しかし、病状が安定している患者さんにとっては、受診や薬局訪問の頻度を減らすことができれば、時間的・経済的な負担が軽減されます。また、医療機関側でも、軽症で状態が安定した患者さんの受診回数が減れば、より重症・複雑な疾患の患者さんへの対応に注力できる可能性も生まれます。
日本の医療制度におけるリフィル処方箋とオンライン服薬指導
リフィル処方箋の仕組みとその背景
リフィル処方箋は、一定期間内であれば、繰り返し(最大3回まで)薬局で同じ薬を受け取れるという仕組みです。2022年4月の診療報酬改定で導入されました。
この制度が生まれた背景には、高齢化の進展による医療費増加への対応や、患者さんの利便性向上、そして医師の外来業務負担軽減といった目的があります。病状が安定している患者さんに対して、医師の判断に基づき、リフィル処方箋を発行することが可能になりました。
ただし、どの疾患でもリフィル処方箋が使えるわけではありません。例えば、投薬期間に制限がある医薬品や、湿布薬など回数制限のある医薬品、向精神薬などは対象外です。また、医師は患者さんの状態を慎重に判断し、リフィル処方箋の発行が適切である場合にのみ発行します。薬剤師も、リフィル処方箋に基づき調剤する際に、患者さんの状態を確認し、継続が不適切と判断した場合は処方医に疑義照会を行う義務があります。
オンライン服薬指導の仕組みとその背景
オンライン服薬指導は、患者さんが薬局に出向かなくても、情報通信機器(スマートフォンやパソコンなど)を使って薬剤師から服薬指導を受けられるという仕組みです。以前から規制緩和に向けた議論はありましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、特例的な対応から恒久的な制度として広く普及が進みました。
この制度は、薬局への移動が困難な患者さんや、感染症対策として対面接触を避けたい患者さんにとって非常に有効です。また、地理的な制約を超えて、患者さんが自宅にいながら地域の薬局や、かかりつけの薬剤師から指導を受けられる可能性を広げました。
オンライン服薬指導を利用するには、いくつかの要件があります。例えば、初回は原則として対面での服薬指導が必要であること(現在はコロナ特例で緩和されている部分もあります)、オンラインでの対応が可能な薬局であること、情報通信機器の準備などが挙げられます。薬剤師は、オンラインであっても対面と同様に、患者さんの状況を十分に把握し、適切な指導を行う必要があります。
看護師はこれらの制度にどう関わるか
リフィル処方箋やオンライン服薬指導といった新しい制度は、直接的には医師や薬剤師、薬局が中心となって運用されるものですが、患者さんの療養生活を支える看護師にとっても無関係ではありません。
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患者さんへの情報提供と相談:
- 患者さんがこれらの制度について知らない場合、その選択肢があることを伝えたり、利用方法について簡単な情報を提供したりすることができます。「毎回病院に来るのが大変でしたら、先生にリフィル処方箋について聞いてみることもできますよ」といった声かけや、「お薬、どうやって受け取られますか?オンラインでも説明を受けられる薬局もありますよ」といった形で、患者さんの状況に応じた情報提供が可能です。
- 患者さんが制度について不安や疑問を持っている場合に、話を聞き、必要に応じて医師や薬剤師に情報をつなぐ役割も担います。
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服薬状況の観察と多職種連携:
- リフィル処方箋を利用している患者さんの場合、受診間隔が空くことがあります。その間、看護師が訪問看護などで患者さんと関わる機会があれば、服薬状況や副作用の有無、病状の変化などを観察し、異変があれば医師や薬剤師に速やかに報告することが重要になります。
- オンライン服薬指導を利用している患者さんについても、看護師が患者さんの自宅環境やIT機器の利用状況などを把握していれば、薬剤師がより適切な指導を行うための情報提供ができます。
- これらの制度は、患者さんを中心に医師、薬剤師、看護師などが連携して患者さんを支える、まさに多職種連携の推進につながります。看護師は、患者さんの最も身近な存在として、それぞれの専門職間の情報共有のハブとなり得ます。
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制度理解を深めることの意義:
- 看護師自身がこれらの制度について理解しておくことは、患者さんへの適切な情報提供や、チームの一員としてのスムーズな連携に不可欠です。制度の対象となる患者さん、利用の条件、起こりうる課題などを知っておくことで、患者さんの困りごとに気づき、必要な支援につなげることができます。
- 日々の忙しさの中で制度の細部までを学ぶ時間は取りにくいかもしれませんが、患者さんの「薬」に関する訴えをきっかけに、「そういえば、リフィル処方とかオンライン服薬指導ってどんな制度なんだろう?」と関心を持つことから始めてみるのも良いでしょう。
将来的な展望と看護師の役割
リフィル処方箋やオンライン服薬指導といった制度は、まだ始まったばかり、あるいは発展途上の部分もあります。今後、対象となる疾患や医薬品が拡大されたり、情報通信技術の進化によってさらに利用しやすくなったりする可能性があります。
同時に、これらの制度が普及することで、患者さんのセルフマネジメント能力の重要性が増したり、医療従事者間の情報共有のあり方が変化したりすることも考えられます。
このような変化の中で、看護師には患者さんの個別性を理解し、それぞれの生活背景やニーズに合わせた支援を提供することがますます求められます。制度を単なるルールとして知るだけでなく、「この患者さんにとって、どの制度が利用できるだろうか?」「どのように情報を提供すれば、患者さんの不安なく制度を利用できるだろうか?」といった具体的な視点を持つことが重要になるでしょう。
まとめ
医療ドラマで描かれる患者さんの日常的な困りごとの中には、日本の医療制度の課題が隠されていることがあります。今回取り上げた「薬」にまつわる困りごとは、リフィル処方箋やオンライン服薬指導といった新しい制度の導入を後押しする要因の一つとなりました。
これらの制度は、患者さんの利便性向上や医療費抑制、医療従事者の負担軽減を目指すものですが、その恩恵を患者さんが十分に受けるためには、医療従事者一人ひとりが制度を理解し、患者さんを適切にサポートすることが不可欠です。
特に看護師は、患者さんと最も身近な存在として、これらの制度に関する情報提供や、服薬状況の観察、そして医師や薬剤師との連携において重要な役割を担います。日々の業務の中で患者さんの声に耳を傾け、制度に関する知識をアップデートしていくことが、より質の高い患者ケアにつながるでしょう。
医療制度は常に変化しています。その変化を知り、自身の業務にどのように活かせるかを考えることは、看護師としてのキャリアを考える上でも大きな力となります。ドラマをきっかけに医療制度に関心を持つことは、きっと日々の業務をより深く理解し、やりがいを見出す一助となるはずです。