医療制度とドラマの交差点

ドラマで見た「遠隔診療」のリアル:日本のオンライン診療制度と看護師の役割

Tags: オンライン診療, 医療制度, 看護師, 医療DX, 遠隔医療

ドラマで描かれる「スマホ診察」の光景、それは現実?

日々の業務お疲れ様です。皆さんもご存じのように、最近の医療ドラマでは、患者さんが自宅にいながらスマートフォンやパソコンを使って医師の診察を受ける「オンライン診療」のシーンが描かれることが増えてきましたね。

たとえば、ドラマの中で、遠隔地に住む患者さんが急な体調不良を訴え、病院に行くのが難しい状況で、主治医が画面越しに問診を行い、適切な指示を出す、といった場面を見たことがあるかもしれません。あるいは、退院した患者さんのフォローアップのために、定期的にオンラインで顔を見て話す、という描写もあるかもしれません。

ドラマでは、オンライン診療が手軽で便利なものとして描かれたり、逆に画面越しでは限界があること、トラブルが起こる可能性などが描かれたりしています。こうした描写を見て、「私たちの病院でも、今後オンライン診療が増えるのかな?」「看護師はオンライン診療にどう関わるんだろう?」と興味を持ったり、漠然とした不安を感じたりする方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では、こうした医療ドラマでの描写をきっかけに、日本のオンライン診療制度の現状と歴史、そして看護師の皆さんにとってどのような関わりがあるのかを掘り下げて解説していきます。

ドラマのオンライン診療と現実の制度の「違い」と「共通点」

ドラマでオンライン診療が描かれる際、往々にしてスピーディーに診察が進み、患者さんも医師も手軽に利用しているように見えることがあります。しかし、現実のオンライン診療は、日本の医療制度の中で厳密なルールに則って実施されています。

ドラマとの大きな違いの一つは、「誰でも、どんな病気でも、いつでもオンライン診療が受けられるわけではない」という点です。日本のオンライン診療制度は、患者さんの安全を最優先に考え、対象となる疾患や患者さんの状態、利用できる医療機関などに制限が設けられています。ドラマのように、初診からいきなりオンラインで全てが解決、というケースは、実は限られているのです。

また、ドラマでは見えにくい部分として、医療機関側の体制や技術的な準備も重要です。患者さんが使用する端末だけでなく、医療機関側も適切な情報通信機器を備え、セキュリティ対策を講じる必要があります。さらに、オンライン診療だけで診断や治療が完結できない場合は、対面診療や他の医療機関との連携が不可欠となりますが、こうした連携の難しさがドラマで詳しく描かれることは少ないかもしれません。

一方で、ドラマで描かれる「患者さんの利便性向上」「医療アクセス改善」といったメリットは、現実のオンライン診療が目指している共通の目標です。地理的な制約、移動負担、感染リスクの低減などは、まさにオンライン診療が期待されている効果であり、これはドラマも現実も変わりません。

日本のオンライン診療制度を深掘りする

では、日本のオンライン診療制度はどのように成り立っているのでしょうか。その歴史や仕組み、そして看護師の皆さんとの関わりについて見ていきましょう。

制度導入の背景と歴史

オンライン診療(当時は「遠隔診療」と呼ばれていました)自体は、かなり以前から議論されていました。特に、へき地や離島など、地理的な理由で医療機関へのアクセスが難しい地域において、情報通信技術を活用した医療提供の必要性が認識されていました。

本格的に制度化が進んだのは、比較的最近のことです。2015年に厚生労働省が「情報通信機器を用いた診療に関する手引き」を公表し、対面診療と適切に組み合わせることを前提とした上で、特定の状況下での実施が可能となりました。しかし、当初は「初診は対面診療を原則とする」という強い縛りがあり、普及は限定的でした。

大きな転換点となったのが、2019年末からの新型コロナウイルス感染症の流行です。感染拡大を防ぎつつ医療を提供するために、時限的・特例的に初診からのオンライン診療が認められるようになりました。これにより、多くの医療機関や患者さんがオンライン診療を経験することとなり、その有効性や課題が改めて浮き彫りになりました。

そして、2022年の診療報酬改定で、オンライン診療は特例措置から恒久的な制度として位置づけられました。ただし、患者さんの安全を確保するため、初診オンライン診療の対象疾患の制限や、向かい合った診療(対面診療)と組み合わせて行うことなどがルールとして定められています。

現在のオンライン診療の仕組み

現在の日本のオンライン診療制度は、主に以下のような要素で成り立っています。

看護師の皆さんとの関わり

では、看護師の皆さんはこのオンライン診療にどのように関わる可能性があるでしょうか?

このように、オンライン診療の普及は、看護師の業務内容にも変化をもたらす可能性があります。システムへの理解、患者さんへの説明力、そして遠隔での情報把握能力などが、今後より求められるようになるかもしれません。

オンライン診療の課題

現在のオンライン診療制度には、まだいくつかの課題があります。

オンライン診療の将来展望と看護師のキャリア

医療DX(デジタルトランスフォーメーション)が推進される中で、オンライン診療は今後もさらに普及が進むと予想されます。技術の進歩により、自宅にいながら生体情報を遠隔でモニタリングしたり、高精細な画像情報を共有したりすることも可能になるかもしれません。

制度面でも、安全性を確保しつつ、より多くの患者さんがオンライン診療を利用できるよう、見直しが進む可能性があります。例えば、特定の慢性疾患を持つ患者さんに対する初診からのオンライン診療の拡大や、離島・へき地における活用促進などが議論されています。

このような変化は、医療現場で働く私たちにも大きな影響を与えます。オンライン診療への理解を深め、関連システムの操作スキルを身につけることは、今後の看護師のキャリアにおいて重要な要素となるでしょう。また、対面診療とオンライン診療を組み合わせた新たなケアモデルを構築していく中で、看護師ならではの視点や、患者さんとのコミュニケーション能力がさらに問われるようになります。

地域包括ケアが進む中で、在宅で療養する患者さんに対するオンラインでのサポートの重要性も増していくでしょう。訪問看護師だけでなく、病院の看護師も、退院後の患者さんをオンラインでフォローアップする機会が増えるかもしれません。

まとめ:制度理解が未来のケアに繋がる

医療ドラマで描かれるオンライン診療は、その一部を切り取ったものに過ぎませんが、日本の医療が変化しつつある現状を私たちに示唆してくれます。オンライン診療は、単なる「スマホでの診察」ではなく、日本の医療提供体制の課題に対応し、患者さんのアクセスを改善するための重要なツールとして、制度の中で位置づけられています。

今回解説したように、オンライン診療にはまだ課題もありますが、医療DXの流れの中で今後も発展していく可能性を秘めています。医療制度としてのオンライン診療を正しく理解することは、変化に対応し、患者さんに対してより質の高いケアを提供していく上で不可欠です。

日々の忙しい業務の中で、医療制度全体を学ぶ時間は限られているかもしれませんが、ドラマで興味を持ったテーマからこのように少しずつ制度を深掘りしていくことで、自身の仕事が日本の医療の中でどのように位置づけられているのか、将来どのように変化していくのかが見えてくるはずです。

オンライン診療は、医療従事者の働き方や、患者さんへのケアの提供方法にも変化をもたらします。制度の動向に関心を持ち、新しい技術や制度に柔軟に対応していく姿勢が、今後の看護師のキャリアを豊かにしていく鍵となるでしょう。この記事が、皆さんの学びの一助となれば幸いです。