あなたの「働き方」どう変わる? 医療ドラマきっかけで知る日本の医師働き方改革とタスクシフト/シェア
医療ドラマのあの激務シーン、現実はどうなの?
「徹夜明けでフラフラの医師」「家に帰れない看護師」「緊急手術で朝まで病院缶詰」――医療ドラマには、医療従事者の過酷な勤務状況を描写するシーンがしばしば登場します。フィクションとはいえ、こうした場面を見て、日々の業務に追われる皆さんも「あるある」と感じたり、将来の自分の働き方に不安を感じたりすることもあるかもしれません。
日本の医療現場、特に医師の長時間労働は長年の課題でした。その背景には、救急対応や手術の長時間化、当直勤務、さらには地域医療における医師不足など、様々な要因があります。ドラマで描かれる過酷な労働環境は、残念ながら現実をある程度反映していると言えるでしょう。
この問題に対処するため、そして医療の質と安全を守るために、国は「医師の働き方改革」を推進しています。そして、この改革は、医師だけでなく、私たち看護師を含む全ての医療従事者の働き方に影響を与える可能性を持っています。特に注目されているのが、「タスクシフト/シェア」という考え方です。
ドラマの中の「医師は何でもできる」? 現実との違い
医療ドラマでは、緊急時などに医師が多くの専門的な処置を迅速に行う場面が描かれます。もちろん、医師は高度な知識と技術を持っていますが、実際の医療現場では、医師一人で全てを担っているわけではありません。看護師、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士など、多様な専門職がそれぞれの役割を果たし、連携することで患者さんのケアが行われています。
しかし、これまでは医師が本来医師でなくても可能な業務の一部までを担わざるを得ない状況が多く見られました。これは、医師の専門性を最大限に活かせないだけでなく、医師の負担増にも繋がっていました。医師の働き方改革は、この状況を変えようとするものです。
日本の医師働き方改革とタスクシフト/シェアの仕組み
医師の働き方改革の背景と概要
日本の医師の労働時間は、全産業の労働者と比較して非常に長いことが指摘されてきました。これが医師の疲弊を招き、医療ミスのリスクを高める可能性や、若い医師が外科など過酷とされる診療科を避ける要因となり、将来的な医療提供体制の維持が危ぶまれる事態となっていました。
こうした状況を受け、2019年に医療法などが改正され、2024年4月からは原則として全ての医師に対し、時間外労働の上限規制が適用されています。これは一般企業における働き方改革と同様、医師にも健康的な働き方を保障し、持続可能な医療提供体制を築くための重要な一歩です。ただし、地域医療への影響や高度な専門性を要する医療への対応など、様々な配慮が必要なため、労働時間の上限は勤務する医療機関や業務内容に応じてA・B・Cといった複数の水準が設けられています。
なぜタスクシフト/シェアが必要なのか?
医師の労働時間上限規制が導入されるだけでは、医師の業務量が劇的に減るわけではありません。医師の業務を効率化し、医師がより診断や治療方針決定といった、医師にしかできない専門性の高い業務に集中できるようにするためには、これまで医師が行っていた業務の一部を、他の医療専門職へと移管したり、共同で実施したりする「タスクシフト/シェア」が必要不可欠となります。
厚生労働省は、医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師・臨床工学技士など、多職種におけるタスクシフト/シェアを推進するための検討を進め、法改正やガイドライン策定を行っています。
看護師に関わるタスクシフト/シェア
私たち看護師は、これまでも医師の指示のもと、幅広い業務を行ってきました。タスクシフト/シェアの推進により、看護師の業務範囲はさらに拡大する可能性があります。特に注目されているのは、以下の点です。
- 特定行為に係る看護師の研修制度: 特定の研修(特定行為研修)を修了した看護師は、これまでは医師の指示がなければできなかった38行為(21区分)について、手順書により医師の包括的な指示のもと実施できるようになります。例えば、気管カニューレの交換、インスリンの投与量調整、脱水時の薬剤投与などが含まれ、これにより医師がいなくてもタイムリーな対応が可能になります。これは、看護師の自律性を高め、キャリアアップの機会を広げるものです。
- その他の業務範囲の拡大: 特定行為研修以外にも、医師法や保健師助産師看護師法(保助看法)の解釈見直しや法改正により、看護師ができる業務が明確化されたり、拡大されたりする動きがあります。例えば、これまで医師の指示が必要とされていた採血の一部などが、診療の補助行為として看護師単独で行える範囲が広がるといった事例があります(ただし、これは施設や状況によって異なる場合があります)。
これらの動きは、医師の負担を軽減し、チーム全体で患者さんを支える医療体制を強化することを目的としています。
看護師への影響と今後の展望
タスクシフト/シェアは、看護師にとって新たな活躍の場や専門性を深める機会を提供します。特定行為研修などの研修制度を活用することで、より高度な医療知識やスキルを習得し、キャリアパスを広げることができます。
一方で、業務範囲の拡大は、責任の増大や新たな知識・技術習得の必要性を意味します。業務負担が増える可能性も懸念されており、タスクシフト/シェアを円滑に進めるためには、十分な研修体制の整備、業務分担の見直し、適切な人員配置などが課題となります。
医師の働き方改革とそれに伴うタスクシフト/シェアは、日本の医療提供体制全体の変革です。これは、単に医師の労働時間を短くするためだけではなく、全ての医療従事者がそれぞれの専門性を最大限に発揮し、より質の高い医療を患者さんに提供するための取り組みと言えます。
まとめ:制度を理解し、未来への一歩を踏み出す
医療ドラマをきっかけに「働き方」に関心を持った皆さんもいらっしゃるでしょう。医師の働き方改革とタスクシフト/シェアは、遠い制度の話ではなく、皆さんの日々の業務や今後のキャリアに直接関わってくる重要な変化です。
制度の背景や仕組みを理解することは、自身の業務の意義を再確認し、将来どのようなスキルを身につけたいか、どのようなキャリアを歩みたいかを考える上での羅針盤となります。変化を恐れず、積極的に学び、新たな役割にチャレンジしていくことが、看護師としての可能性を広げ、激務と言われる医療現場でも自分らしく働き続ける力となるはずです。
これからも、医療ドラマを通して様々な医療制度や現場のリアルに目を向け、共に学んでいきましょう。